「逃げるは恥だが役に立つ」は現代の雇用契約への問題提起

TBSで放送中の「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマがすごい人気です。
主演のガッキーこと新垣結衣さんの可愛らしい好演や恋ダンスもさることながら、脇を固める人たちも芸達者で見ていて飽きがきません。
原作は無料の1巻だけしか読んでいないですけど、ドラマの雰囲気そのままという感じです。
 
でもドラマではただの恋愛ドラマではない隠れたテーマがあるようです。
それは今の雇用契約や働き方への皮肉です。
 
まずこのドラマは主人公のみくりが派遣切りされるところから始まります。
女性だから洗い物やお茶汲みをさせられ、それでも嫌な顔をせず、仕事は出来るほう。
でも契約終了と同時に更新をされずにクビになる。
そのときの会社の人間の言葉が「君は優秀なんだし…」というのは、クビを切るほうが罪悪感を持たないための言い訳の定番です。
 
これが今の会社のやり方であり、若者が定職につけない理由でもあると思います。
優秀であっても仕事には恵まれない。
この状況が続いているから日本の景気は悪くなるばかりなのでしょう。
ちなみにみくりの雇用主である平匡も、今の会社では仕事のできる優秀な社員なのに、前の会社はブラック企業で能力を発揮できなかったようです。
 
そんな二人が契約結婚をして築き上げていくのが、理想の雇用関係だといえます。
初めに雇用契約をハッキリさせて、問題が起きたらその都度話し合いというのは理想的です。
みくりの言葉に「お互いの役割をキチンとしていれば、あとは自由なんです」というのも、仕事時間とプライベートをキチンと分けた理想の職場と言えるでしょう。
平匡の言葉に「時間外手当」というのが頻繁に出てくるのも、そのときに相手の了解を得るというのも理想的です。
仕事が終わらなければ残業してでも終わらせるのが当たり前と思っている経営者や、サービス残業をさせるなど以てのほかなのです。
 
他にも月の家計をオーバーしてしまったみくりが、赤字分を自分で補填しようとしたときに平匡が「それではブラック企業です」と言い切ったのも、当たり前ですけど、現実ではそういう会社は少ないでしょう。
掛売の取引先が飛んだとき担当営業マンが補填させられたり、減給や降格させられるのは半ば当たり前なのに、違法と思っていない社会って変ですよね。
業務中でも会社の備品を壊したら全額弁償とか、普通と思っている時点で、ホントはかなりマズいはずなんですけど…
 
法律順守でしかないみくりと平匡の雇用関係が理想的に写る。
それが今の日本なんです。
それがわかっているから視聴者は憧れをもって見ているのでしょう。
 
「働きやすい環境を作るのも雇用主の仕事ですから」
「許可を出したのは私ですから」
 
こんな事を言ってくれる経営者がどれだけいるんでしょう。
 
一方、平匡の務める会社は現実社会の良い企業です。
フレックスタイム制で給料も悪く無いし、雰囲気もいい。
けれど一週間以上の泊まりがけの残業なんてこともある。
それでもやはり現実にはこんな会社も少数派で、一歩間違えれば電通と同じにだってなりかねない。
なにしろフレックスタイム制でも強制的に無理な残業はさせてはいけないですから。。。
 
こんな理想の雇用関係を羨ましく見る。見させるのが「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマなんだと思います。
そして「法律さえ守れば理想の会社」というのは、いかに現実の会社という社会が無法地帯で治外法権化された場所なのかということでもあるわけです。
 
それにしても今のドラマは理想の恋愛より理想の雇用がウケる時代なんですね。
それだけ疲弊した従業員や若者が多いということでしょう。